勝田ズ・ウェイ  6

いよいよ脳内フィルム・ノワールとして本調子が出てきた「勝田ズ・ウェイ」。暴走が止まらなくなる興戸社長の「人間ここまで堕ちるのか」という堕落の凄まじさをご堪能ください。くれぐれも興戸社長のイメージは動画のジョン・ハードさんでお読みください。

なお、このお話はフィクションであり、いかなる個人・団体・事件とも一切関係ございません。クルド人に関する記述も実際のクルドの人たちとは一切関係ございませんのでよろしくお願いいたします。


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興戸社長についてもう少し詳しく解説しよう。このおっさんの家系が元来ユスリ・タカリ専門のチンピラでたまたま戦後のドサクサに田舎者から土地を巻き上げることに成功した土地成金であることは書いた。
だが、この興戸社長に関してはいささかその家柄というか家系の性質を恥じているところがあり、それゆえ道徳にすがる気質が強かった。東京三田のお坊っちゃん大学卒でインテリで温厚な紳士であり、道徳を重んじる教育を行えば必ずやどんな人間も正しい道を歩むだろうという信念があった。これは自身の家系の性質(ユスリ・タカリ専門のチンピラ)を恥じてそこから逃れようとする彼の心情の表れなのかも知れない。
そんな性格なので万事を律する小うるさい性質も身につけてしまい、それゆえ無類の説教好きオヤジになってしまったわけだ。そしてその徳を重んじ万事を律する性質が「傲慢すぎるエゴ」として開花したのが息子の公一の性格と言えるだろう。


現在彼は彼の息子とその仲間がしでかした身の毛もよだつリンチ殺人を目の当たりにして、彼は怒り、悲しみ彼らを責め立てて反省させることに成功させた。そうなってくると当然彼らを自首させるのが万事を全て収める最良の策と思えるのだが、彼の頭には別の考えがよぎった。というのもこの日の彼はある意味人生で最も「ノッている」日だったかもしれない。
リンチ殺人を行うような荒くれ者を相手にぶん殴り、得意の説教をぶちかまし、一人でこの事態の主導権をあっさり握ってしまったのだ。この「過酷な状況においてあまりにもうまく行き過ぎた状態」が彼の「万事を律する」ことを好む彼の性質を肥大化させたと言って良い。

そんなわけで事件を隠蔽する方向に方針を切り替えた。そっちの方が万事が丸く収まるという結論に達したからだ。彼にとって問題となってくるのは勝田くんの存在だった。犠牲者の女の子が一人まだ生きている上に勝田くんの彼女なのだ。勝田くんは当然なんとしてでも彼女を助けようとするだろうし、そうすれば事件は露見してしまう。そもそもこの荒くれ者4人に囲まれた状況だ。自分や勝田くんすら彼らに証拠隠滅のために殺される可能性すらある。犠牲者は最小限にとどめなければならない。特に勝田くんは遠縁の親戚にあたるし彼が入社して1年。彼を我が子のように可愛がっている。人間的には実の息子より可愛い。なんとしてでも勝田くんは守りたい。犠牲になってもらうのは心苦しいがエヴィンちゃんとか言う勝田くんの彼女一人にしなければ。そして勝田くんが彼女をかばうのをやめさせて隠蔽する側に回ってもらわなければ彼の命も危ない。こっち側に回ってもらうには



勝田くんにエヴィンちゃんを殺させることしかない



というわけで、社長は勝田くんに彼女の殺害を命令した。公一やその友人には「安心しろ、君たちの将来のためにこのことは闇に葬りさる、やってしまったことをくよくよ考えてもしょうがない。でもそのためにはこの勝田くんに協力してもらわなければならない」と語った。全員社長に感謝の意を口々に述べてから「勝田、お願いだ、俺たちを救うために(エヴィンちゃんの殺害を)やってくれ!」と全員で嘆願するのだった。

その様子を見て勝田くんは胃が痛み小便が漏れそうなぐらい震えあがった。そんなことができるわけがない。勝田くんとエヴィンちゃんとの付き合いが10年以上であることは以前書いたとおりだし、本当に苦楽を共にしてきた2人なのである。さすがにそんなことをするくらいなら体をバラバラにされた方がいくらかマシだと思ったし勝田くんにとっては実際そうだった。
勝田は恐怖にすくみあがりつつもエヴィンちゃん殺害を嘆願するバカ息子他のメンバーの前に来て土下座した。そして泣きながら「どうかそれだけはやめてくれ、エヴィンはいい子だ、君たちを陥れるようなことは決してしない、生き残っても決して君たちのことは警察には言わない、エヴィンが死んだら俺は生きていけない、そして俺にもそんな恐ろしいことはできるわけがない」と嘆願した。

そんな勝田くんの様子にイラついたバカ息子と仲間たちは「いい加減にしろ!」とか「やらないとお前も命が無いぞ!」とか罵声を浴びせ出した。本当に危険な状況になってきたがさすがに勝田くんも必死だったので「お願いだお願いだ!」と必死で嘆願した。

の様子を見た興戸社長が罵声を浴びせるバカ息子たちを悠々とかきわけて前に出て土下座している勝田くんの前にしゃがみ込み勝田くんに顔を上げるように言った。社長の顔はこんな時なのに何故かやさしげな笑顔を見せていた。


「いいか」


そう切り出してから興戸社長のこの世の地獄とも言える恐怖の説教が始まった。



長くなるので続きます。