勝田ズ・ウェイ  5


え〜、こちらが本家「カッターズ・ウェイ」のカッターさん。戦争で片目と片手と片足を奪われた傷痍軍人なんですが、こちらの勝田くんの場合は何を奪われるのかをとくとご覧あれ、奪うのはカッターさんを演じたジョン・ハードをイメージして作った興戸社長です。

なお、このお話は完全なるフィクションで劇中の個人・団体・事件は現実のいかなる個人・団体・事件とも一切関係ございません。クルド人に関する記述も完璧に想像で書いているので実在のクルドの人たちとは一切関係ございません。くれぐれもよろしくお願いいたします。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

資材倉庫の外に駐車されてる車(ハイブリッド車)は興戸社長の息子・公一(話に関係ないが社長の名前は公介だ)の車とその友人の車である。実は公一の車は10日前に事故に遭ったので廃車して、あたらしく買い換えたばっかりのもの。
公一は以東市の山の手にあるお坊っちゃん大学に通う3回生で20歳。高校ではラグビー部で勝田くんより背が高くがっちりしたスポーツマンである。さわやかで今まで苦労したことがないような天衣無縫さとやさしげな印象を与える好青年。趣味は休日に彼女とドライブに行くことという本当に豊かさを満喫してる加山雄三の若大将みたいな人物のようだが、行動範囲が異様に狭く、大学に行っても新しい友達を作らず高校時代からの部活の友人としかつるまない、遊びにいくにしても大都市の繁華街には行こうとしない。という父親の公介氏からしたらちょっと不可解な面を持っている男だ。

なお、勝田くんは社長に気に入られて色んなところに(不良から更生したロールモデルとして)連れてかれることがあるのでこの公一とも2、3度面識があるのだが勝田くんは「エナメル靴の兄ちゃん」と呼んで小馬鹿にしていた。本当はエナメル靴では無くてコードバン(馬の尻の革でできたピカピカに輝く高級皮革)でできたイギリス製の紳士靴(お値段にして10万円くらい)のことで、公一はどんな恰好でもこのコードバンの靴を合わしてコーディネートするので勝田くん曰く「ダサい」というのである。そして手入れがたいへんなコードバンの靴なんだけど公一の履いているそれは明らかに手入れが行き届いてない残念なコンディションなのが勝田くんにもモロわかりであり、道具の手入れができない男は下町育ちの勝田くんに言わせれば「ダメな男」なのである。

はてさて、資材倉庫の重い扉を開けて興戸社長と勝田くんが中に入ってみると、真っ青な顔の公一が出迎えた。本当に弱ってる様子なので何があった?と社長が尋ねたら倉庫の奥に案内された。
公一の友人3人の奥の壁に向かって立つ後ろ姿が見えた。この3人は公一の高校ラグビー部時代からの友人、2人は公一と同じ大学に通い、もう一人は興戸建設に就職(社長の息子・公一のコネだ)した井口という男である。
この3人が突っ立ってる間から「どきなさい」と社長が割り込んで奥を見るとすぐに、「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」と社長はもの凄い悲鳴を上げた。

明らかに手ひどく暴行された2人の若い女の子が倒れていた。

一人の方は上は黒のパーカーを着ているが下は丸裸にされている。そして顔は何か重たい物で叩き潰されたようで顔がペシャンコに潰れていた。もう一人も服ははだけて肌が見えるところは全てあざだらけ、痛みに悶えているのでまだ生きてはいるようだ。

社長の悲鳴にびっくりしてすぐ後にその光景を見た勝田くんもまた「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」と悲鳴を上げた。

暴行された女の子二人は勝田くんの友人・さゆりちゃんと彼女のエヴィンちゃんだったからだ。

公一の友人を突き飛ばして二人の元にかけよる勝田くん、顔がペシャンコになってる方は変わり果てた姿になってるが間違いなくさゆりちゃんであり、痛みに苦しんでる方も顔が変わるくらい殴られてるがエヴィンちゃんだった。顔もひどく変わってしまってるがとくに痛々しいのが左足で膝から下が変な方向に曲がっている。衰弱もひどく体も冷たくなっていた。勝田くんは思わず泣きながらエヴィンちゃんの名前を繰り返し呼び抱きしめた。勝田くんの様子と彼が叫ぶ彼女の名前を聞いて社長はびっくりした。息子たちが暴行した女の子の一人は勝田くんの彼女で名前からクルド人だとわかったからだ。でも今はそれどころではない。



この事態のあらましを解説しておこう。10日前に公一は彼女と車でドライブをしていると人気の無い峠道でどでかい石がフロントガラスに落ちてきた。あわててハンドルを切ってあわや谷底に落ちる寸前の事故になったんだけど、そこは落石があるような場所でなく、落ちてきたのがよく見たらブロックだったので人為的ないたずらだった。

その峠道はちょっと街中から離れてるが以東市内にある所だったが手口から米田村の人間がこれをやったに違いない(話に関係無いが本当は以東市の市立中学校の生徒達が犯人だった)ということになり、「米田村の連中が自分たちのテリトリー(と勝手に思っている)まで進出してきた!」ということで公一とその友人たちは蜂の巣をつついたような大騒ぎ。自分たちの住み慣れた街でよそ者が狼藉三昧というのは公一たちにとって最も不愉快で恐れていた出来事だったからだ。この事態をどうにかしようとみんなでアレコレ策を練っているところに井口がボウリング場でさゆりちゃんとエヴィンちゃんを発見。さゆりちゃんの兄貴は名の知れた不良で米田村の出身という出自も割れているし、その妹ということでさゆりちゃんも有名人だった。普段は温厚なお坊っちゃんだった公一であったが、あやうく殺されそうになった怒りとよそ者が自分のテリトリー(と勝手に思い込んでいる)ででかい顔してるのがむかつくという短絡的な気持ちからこの二人を拉致して制裁(と彼らが勝手に呼んでいる)を加えることを思いついたのだ。「そいつらを”みせしめ”にしてやれ」と公一は言ったのだが、この「みせしめ」という言葉が公一は本当に好きだった。

そんなわけでさゆりちゃんとエヴィンちゃんは優柔不断な勝田くんの悪口を言い合いながら2ゲーム終えて帰ろうとボウリング場の駐車場に向かったところを拉致られた。(注;実際のボウリング場の駐車場は常に警備が万全なのでこういう危険はございません。安心してボウリングをお楽しみください)
拉致られる前から自分たちを携帯をかけながらじろじろと見続けている井口の不審な動きに気づいたエヴィンちゃんは胸騒ぎがして勝田くんに迎えにくるよう連洛したが勝田くんは前回のような状況だったので迎えにこれなかった、というわけだ。

拉致られて会社の資材倉庫(子供の頃から公一はここを遊び場にしていた)に連れてこられた2人は朝まで暴行を受けつづけた。衰弱しきった状態の2人に対してもまだ怒りが収まらなかった公一はさらにエヴィンちゃんの足を自慢のオールデンのコードバン靴で蹴って膝が変な方向に曲がった状態にした。次にぐったりして横たわっているさゆりちゃんの腹を思いっきり蹴ったところコードバン靴を通して公一の足に妙な感触が伝わった。
それからさゆりちゃんの体はブルブルと痙攣をおこしはじめて止まらない。何が起こったのかわからないがブルブル痙攣しているさゆりちゃんを見て何とか止まらないのかと蹴ったり叩いたりしてしまいにはブロックで頭を何度も叩いて顔をペシャンコにしてしまった。

拉致る、輪姦す、まで確信犯でやっておいて殺すところまでいったら怖くなって親に助けを求めるというのがとうてい普通の人間では考えられないくらい馬鹿で間抜けなお話なんだけど、公一とその友人たちにしてみれば「みせしめ」とか「おしおき」というのは社会の秩序を守るためには必要不可欠な要素であって自分たちはそれを行っただけ、制裁を受ける方が悪い、という感覚が強いのだ。


さて、自分の息子とその仲間がしでかしたあまりにおぞましい行為に気が動転しつつもこのことの次第を息子の公一から聞いた興戸社長は泣きながら目を真っ赤にして公一を思いっきり殴った。そしてその仲間全員も思いっきり殴った。そして全員を壁際に立たせて怒鳴りつけた。「お前らは自分たちが何をしたかわかっていない、命の大切さがわかっていない、お前たちのしたことはケダモノ以下だ、この罪は一生消えない、一生かけても償いきれない残酷なことをお前らはしでかした、制裁を受けなければならないのはお前たちの方だ」と非難した後に「心配するな、どんなに悪事を犯したとはいえ君たちの家族は君たちを今までと変わらず愛しつづけるだろう、そんな家族を悲しませないためにもしっかりと罪の償いを行い、一刻も早く更生して欲しい」と自首をうながすのだった。

そして、公一にだけ向かって「たとえお前がどんな風になっても私はお前の父だ、お前を憎んだりしない。犯した罪は消えないがお前は私のかけがえの無い息子だ。これもお前のためを思って言っていることなんだ」とやさしく語りかけたところで公一は泣き出して「父さん、俺が悪かった。ごめんよ」と言った。そんな公一を社長は抱きしめた。


と、ここまではこの興戸社長、立派な人物なのだが息子の公一を抱きしめながら「この子のためには自首が最善」とは思いつつも、この事件が明るみに出た場合の社会的な影響を考えた。
会社、コネのある政治家、市政、その他を考慮してみた。現在大手メーカーだけで5社、それ以外にも何社もの工場がひしめいて発展を遂げた市だが、昨今はどこも工場を海外に移転してしまっている。市内の工場もいつ移転されるとも限らない。こんな時期にこの不祥事は工場移転を促進することにつながる。これは息子と私たち家族や会社だけの問題では済まない・・・・・・


なんとしてでもこの事件を隠蔽せねば!!


この考えが頭によぎった時社長は若干うつむいて目を上に向け不気味な表情になった。


さて、興戸社長とバカ息子たちがそうこうしている間。勝田くんはエヴィンちゃんを抱きかかえながら「大丈夫か、しっかりしろ、もう大丈夫だからな、すぐに病院にいけるから」とか、衰弱しきった体を気にして「心配ない、きっとすぐに良くなる、そうだ元気になったら結婚しよう」と必死になって励ました。その姿を見てエヴィンちゃん歓喜の涙を流すのだった。
しかし、普通ならすぐに救急車を呼ぶはずなのに何故か誰も救急車を呼ぼうとしない。イラついた勝田くんは自分の携帯を出して119をダイヤルしょうとしたその時、社長が勝田くんの携帯をサッと奪ってこう言い放った。


「勝田、このコを楽にしてあげなさい」



つづきます。