勝田ズ・ウェイ  4

写真は40過ぎてからのジョン・ハードさんの写真です。もうすぐこの物語の真の主役、興戸社長が登場します。がぜんやる気が出てきたところでがんばって続き書きます。興戸社長はこの写真をイメージして読んでくださいね。

劇中登場する個人・団体・事件等は架空のものであり全てフィクションです。特にクルド人に関する記述は実在するクルドの人たちとは一切関係ございません。余計な詮索はしないでお話に集中してください。

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ムシャクシャしてバイクで外に出て行った勝田くん。途中でマクドナルドで飯を食ったりしながらのんびり走っていたが調子に乗って峠道なんかも攻めてみたくなって山に行った彼に過酷な運命が待っていた。
山道でバイクのエンジン停止 → 雨が降ってくる → もう9時過ぎ(今ココ) → 押して帰ったらおそらく夜の1時くらい という最悪のコースを辿ってしまってるので死に物狂いで雨の中キックをかけることになった。

ここで勝田くんのバイク 76年型ハーレーについて説明しておこう。購入の動機は話が進んでから説明するとして、このバイク、後ろ側のサスペンションが付いていない。リジッドフレームというやつなんだけど、こういう仕様にする理由は単にかっこいいから。そして乗り心地は最悪。そしてセルスターターがついていない。なのでエンジン始動はキックスタートオンリー(昔のバイクはみんなそう、ヤンキー漫画の定番バイクのZ2もそう)。これもこうした方が男らしいから。とは言うものの乗るのがいちいちしんどいバイクであるのは言うまでもなく、特にここ最近はエンジンが不調ですぐ止まる。そして再度始動させるときのキックペダルが異様に重い。そして気のせいか最近どんどん重くなっていく。バイク屋に診てもらうが原因不明。最近では本当に厄介な代物に見えてきた。

何度キックしてもかからないエンジンに苛立ち、気になることがあったので修理に出してたバイク屋に携帯から電話してみた。夜の9時だけど店舗と自宅が一緒の小さなお店なのでバイク屋の店長は出た。要件は問題のあった箇所のレギュレーターを交換したかどうかの確認だ。レギュレーターとは電圧を調整するパーツだ。バイク屋の店長はちゃんと交換した、と言う。では何故エンジンがかからないのか?と聞き返す勝田くんに「問題はまったくないはずだからとりあえずあきらめずにエンジンかけてみてくれ」とぶっきら棒に言われ、納得いかないながら再び勝田くんは雨の中キックを続けた。

そしたら今度は誰からか着信があった。相手はエヴィンちゃんだ。「今ボウリング場にいる。様子が変だから迎えに来てほしい」ということなのだが、「雨だから迎えに来い」と言ってるようにとれて腹が立ったので「今それどころじゃない」と事情をめんどくさそうに説明して切る。

それからすぐにもう一度エヴィンちゃんから電話がかかってきた。「本当に様子が変だ、こわいから迎えに来てほしい」ということなんで、「わかったわかった」とめんどくさそうに返事してバイク屋の店長の言葉もエヴィンちゃんの言葉も今一信用ならないと思いながらふてくされた態度でキックをかけてみたら見事にキックバック(日本語で言うところの「ケッチン」)をくらってしまった。キックバックはエンジンが逆に回ってその力がキックペダルにかかってペダルを上に押し上げること。うっかりするとそのパワーで足を捻挫することもある。

その力で押し上がったペダルが勝田くんの右足の膝下あたりにヒットしてあまりの痛さに雨のアスファルトの上を転がりまわった。そしてその怒りでバイクを左側から蹴っ飛ばしてしまった。そうすると車体はあっさり傾いてガターンと右側に倒れてしまった。「カシャーン」という音とともに2つの銀色の物体が雨に濡れたアスファルトの上を向こうの方に転がっていった。ブレーキレバーとブレーキペダルだ。それを見て勝田くんは「ああああああ」という情けない声とともに泣いた。ブレーキ2つとも使えなくなった。走り出したら止まらない。これではエンジンがかかってもどのみち走れない。

しょうがないのでエヴィンちゃんに迎えに行けないことを連洛しようとするが何故か携帯はつながらない。メールで「バスで帰るかタクシーで帰ってほしい」と伝えてとぼとぼと雨の夜の山道をバイクを押しながら帰っていった。



次の日、雨の中を夜中までバイクを押して自宅に帰宅した勝田くんはヘトヘトになりながら仕事に行った。

そんな疲労こんぱいのところをたまたま現場に来てた社長に見られてしまい、「どうしてそんなにしんどそうなんだ?」と声をかけられた。実はかくかくしかじかで、と事情を話したところ「今日は早退してゆっくり休みなさい」と言われ社長の車で自宅まで送ってもらうことになった。

さて、ここでこの興戸社長の気質について説明しよう。この人は三度の飯より説教が好きな男なのだ。疲労こんぱいする勝田くんに声をかけたのも実は「はは〜ん、どうせ夜遊びしすぎたな」と思って説教しようと思ったからだ。教育問題に関心があり、政治家さんたちと組んでいろんな活動もやっているというのは前に書いたがこの活動もひとえに彼の説教好きのなせる技と言って良い。説教ができれば何でもいいのだ。

そんな説教好きの社長さんなので勝田くんを自分の車の中に寝かして連れて来た先は勝田くんの自宅でなくてファミレスだった。どうせ昼食の時間だから何かおごってやろう、ということなんだが、これも勝田くんに説教をする口実である。そんなわけで社長の話は12時ジャストから食事なんかとっくに終わってる1時半まで続いた。

説教の内容だが、まず勝田くんの近況を聞いた。彼女に結婚をせがまれ関係がギクシャクしてること、自分の気持ちの中ではもうちょっと自由を満喫したいこと、などを語ると「勝田くんの気持ちは十分わかるが彼女の言い分の方が正しい云々、女の子にとってそういうことは非常にセンシティブな問題で云々」といった感じではじまった。
そして、「勝田くんは非常に苦労しつつも不良から足を洗って立派に成長した将来有望な若者なのでこれからの立身出世にはできるだけ協力したい」とか涙が出てくるくらいありがたいお話もあったが、そっから教育論がどうしたとか今の政治はどうとかと、話が広がりすぎてわけがわからなくなる上に「今の若者はこの社会情勢はつらいだろうがああでこうでこうだからしっかりしてもらわなくては」と続き「そのためにはああでこうでこういうことをしてああでこうでこういう風にならないと」と続くので聞かされる方はたまらない。

そんな長々とした説教の途中で救いの手なのか?社長の携帯が鳴った。社長の息子の公一からだ。何やら大変なことが起きたのですぐ来てほしいというのだ。場所は会社のビルからちょっと離れたところにある会社の資材倉庫、今いるファミレスから40分くらいのところだ。

電話の向こうの公一のあわてふためいたような様子が気になった社長は「悪いけど帰るまでにすこし付き合ってくれないか?」と資材倉庫に勝田くんと向かうことにした。

さて、行った先の人気の無い場所に建てられた小さな資材倉庫のまわりには、その場に似つかわしく無い高級車(ハイブリッド車)が2台駐車しある。一体、中で何が起こったというのか?

果たしてそれはこの世のものとは思えない異様な光景であった・・・・・・・・


つづきます