勝田ズ・ウェイ  7

(このお話の興戸社長は上の写真の俳優ジョン・ハードさんをイメージしてお読みください)脳内フィルム・ノワール大作「勝田ズ・ウェイ」。いよいよ書きたかったシーンに突入いたしますが、劇中の差別・暴力的発言は登場人物の詭弁ですので当方とは一切関係ございません。そしてこのお話はフィクションでありいかなる個人・団体・事件とも関係ございません。あと、興戸社長をホモと勘違いされる方もいらっしゃるかと思いますが「いびつな方向に肥大化した父性の象徴」ですのでお間違えなきようお願いします。



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興戸社長は土下座している勝田くんに顔を上げさせてやさしく微笑みかけ、「まぁかけたまえ」と倉庫の隅から椅子をとってきて座らせた。そして座ってる勝田くんの前に立って話だした。
さて、勝田くんたちがいる資材倉庫は天井が高く水銀灯がぶらさがっている形で照明設備が作られている。おかげで倉庫は何個かの水銀灯の下の部分だけスポットライトみたいに照らされてるんだが社長が立って話出したのはちょうどそのスポットライトの真ん中あたりの位置である。
この社長の悪夢のような説教は非常に長く3部構成になっている。まず第1幕をご堪能いただきたい。

「勝田には本当に申し訳ないことをした、君の両親は君が幼い頃に死んで親の愛情の素晴らしさを知らない、これは君の人生にとって本当に悲しい出来事だ。世界で最も美しいのは親が子に対して示す愛情だ。親の愛情を知らないということは人生で最大の損失だ。だから君が成人してからになってしまったが君を私の会社に雇入れ親戚の君のために私は親代わりになって愛情を注いだ。その君が今、私と息子とその友人たちを困らせている。これは私の注いできた愛情がいささか君に届かなかった、理解してもらえなかったからだ。私の不徳のいたすところだ」
と始まって「困らせてるのは勝田の方」という論理をさりげなく押し付けた。そこから話は息子の公一のことにいく、公一は生まれた時に自分はこの子のためなら死ねると思ったこと、体が弱い子だったのでしょっちゅう病院に連れていったこと、それが全く苦でなかったこと、その他七五三やら高校受験やら何やらの思い出を長々と語り出して「息子は私の宝だ、命だ、息子を傷つける奴は誰であろうと許さない、息子とその友人たちは確かに過ちを犯したが本当は心優しい青年たちだ、人間は完璧では無い、誰にだって過ちはある、でもたとえ道を踏み外してしまっても私の息子であることには変わりない、もし君がそんな私の息子と友人たちを傷つけるというのならどうか私を殺してからやってくれ。親とはそういうものだ、親の愛情とはそういうものだ。私は君にも我が子と同じく愛情を注いでいる。そんな君が私や息子や友人を傷つけようとしてるのは本当に私にとって情けないことだがそれも私の不徳のいたすところなのだから私は甘んじて君に殺されることを受け入れる。
と、あくまで「勝田くんは傷つける方」であることを刷り込んだ。勝田くんが「人殺しなんておそろしいことはできない」と言ったのをさりげなく聞いた社長は「それを拒むというなら私を殺せ」と言ったのである。死を恐れない覚悟があるわけではない。念のため今の状況を再確認しておこう、社長の息子とその友人は勝田くんの彼女と友人をリンチして1人を殺害、証拠隠滅のために社長たちは勝田くんに彼女を殺害するよう命じてるのである。

その社長の説教に対して少しひるんだ(この状況では強気に出るのは難しいが)勝田くんを見て社長はさらに声を荒げてももう一度「何故だ、何故君を我が子のように思って接している私と息子たちを苦しめる?そんなに私たちが憎いのか?私たちが君に何をしたというんだ?君は今何をしようとしてるかわかっているのか?これだけ君の身を案じている私たちだぞ。これ以上私を苦しめるというんならさぁ、殺せ、殺してくれ!殺せ!私を殺せ!!」と顔を近づけながら怒鳴りつけた。
これには勝田くんは本当に弱り果てた。不良をやめて更生し、真面目に生きようと心に固く誓って生きてきた勝田くんにとっては特に「お前が悪い」の言説はこたえた。そもそも、実の親を亡くしDV夫婦に育てられた勝田くんにとっては暴力には多少耐性があったが精神的になじられるのには耐性が無く、本当に弱かった。(いわゆる不良少年というのは大概そうである)そして、これも興戸社長のクサレ外道気質の本領発揮の表れだが、勝田くんが幼い頃に両親を亡くしている事実を鑑みて家族愛みたいな感性が弱いのを見越して「親の愛というものは〜」という話を持ってきいるのである。


さて、興戸社長の気迫のこもった説教にひるんだ勝田くんではあったが、やはり10年以上にわたり深い絆を築き上げてきたエヴィンちゃんを裏切ることはとうていできないわけで「でもエヴィンを殺すなんて・・・・・・」と弱気 になりながら抵抗するのであった。


そんな勝田くんの態度からちらりとエヴィンちゃんの方を見て、これもクサレ外道丸出しの嫌らしい笑みを浮かべた興戸社長がこう切り出した。

「勝田、あのコはな、お前に相応しい相手じゃない」


そして悪夢の説教の第2幕が始まった。



長くなるので続きます。