台湾ヤマハ&わかばマン 「獅子の雄叫び」

お待たせいたしました。そろそろ続きを書きます。
もうすでにテンションが下がりまくってきてますが最後まで書きますんでよろしく。

なお、このお話はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関わりございません。が、台湾の昔の女の名前「啓子」は横山やっさんの嫁はんからいただきました(笑

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台湾のお話にショックを受けたわかばは沈黙してしまった。彼なりに思うところがいろいろとあるようだが、先ほど自分がうっかり口を滑らして啓子さんを悪者にしてしまったのが一番ショックだった。話の流れから言ってどう考えても弱い立場の啓子さんが諸悪の根源のように思えてきてしまったからだ。つまりそれが一番都合が良かった、というだけなのだが、こういう発想が自分がもっとも嫌う弱い者いじめの発想そのものだったわけだ。

そんなわかばを見かねて「キッチンから食べ物を貰ってくる」と、台湾は冷蔵庫のあるキッチンへ向かった。

キッチンでごそごそと食べ物を物色(了承済み)していると先ほど赤ん坊の夜泣きで起こされて啓子さんが現れたて寝ぼけ気味のパジャマ姿でくたびれきったように「ああ、やっぱり(あんたか)」とつぶやいた。

啓子「お連れさん、目ぇ覚ましたようやね」

台湾「いやぁ、すまんすまん。やっと目ぇ覚ましよったわ。ほんまあいつのイビキごっつかったやろ?赤ちゃんも寝られへんかったんと違うか?メトロ・ゴールドウィン・メイヤーの映画が始まるんかと思うやろ?」

啓子「うちの子はなんか喜んでたけどね(笑 サンドイッチが冷蔵庫の一番上にあるけど、お連れさんも何か食べるやろ?2人分(食事を)作ったげるから(ダイニングの椅子を指して)そこお座り。お茶も入れたげるからしばらく待っとったらええわ」

と言って啓子さんはぶっきらぼうにタバコと灰皿を椅子に座った台湾に投げつけるように放りお茶を入れてからサンドイッチとにぎりめしを作り出した。

そんな彼女を後ろからながめながら台湾が話しかけてきた・・・・

台湾「赤ちゃんはいくつなん?」

啓子さん「来月でやっと1歳」

台湾「そうか・・・」

啓子さん「あんたのお連れさん、トラブルに巻き込まれたって言ってたけどこの先大丈夫なん?」

台湾「見通しは立たんけど今回の件は俺にも責任あるからなぁ。最後まで面倒見たらんと」

啓子さん「(クスっと微笑んで)お人好しなとこは相変わらずやね」

台湾「そういうお前もそんな俺が駆け込んできたらかくまってくれるんやから相変わらず押しに弱いな」

啓子さん「(昔の話を蒸し返されたと思い振り返って)あん時は!本当にどうしょうもなくて・・」

台湾「・・・・あん時の子・・、堕ろしたんか?・・」

ここで解説しておくと、台湾が正社員採用の話に乗って姫路の研修センターに行ったのも啓子さんが今の亭主との縁談に乗ったのも全て啓子さんの妊娠が原因であった。啓子さんは台湾に妊娠を隠してるつもりであったがさすがに隠しきれるものではなかった、というわけだ。

啓子さん「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

台湾「あ、違う違う、責めてるわけやないよ。ただ、あんだけ強情やったお前があっさり正社員の話に乗ったりするのはよほど思いつめてのことやと思ったんや。妥協したいんやったら最初から親戚に詫び入れて復学してコネでええとこに勤めることもできたはずやのにな。それがでけへんくらい急を要して切羽詰まらしたんわ俺の責任やからな、いつかの機会に謝っとこう思ってたんや」

と言って台湾は椅子から立ち上がり気をつけのポーズをとって深々と頭を下げて「本当にすまんかった」と言った。

その台湾の姿を凝視できなかったのか後ろを振り返らずに黙ってうつむいたままの啓子さんであった・・・。

さて、ここで補足しておくと、結局台湾の子は堕胎するハメになってしまったがこれを指示したのは現在の旦那さんの父である工場長である。台湾を辞めさせ、啓子さんを息子とくっつけ全てが思い通りになったと思った矢先に啓子さんから台湾の子を身ごもっていることを知らされパニックに陥った京都の名門凍死者大学体育会系で学閥を頼って頼って出世したものの役員候補から漏れてふてくされ気味の57歳のロートルサラリーマンに過ぎないこの男はクラウザーさんの「殺害せよ」よろしく「堕胎せよ」を啓子さんに連呼しまくった。
差別意識が日本一強い京都の大学で学んだ同氏にとって沖縄県民の血を引く台湾の子を自分の孫として育てるなんぞは身の毛がよだつほど耐えられないことだったのである。
「あんたを正社員にするのだって相当無理をきいてもらってるんだ。わがまま言っちゃ困る」と自分のわがままを聞いてあげてもらってるのは自分の方なのに図々しく啓子さんに堕胎を命じ、さすがに一旦正社員の話に乗ってしまった以上まな板の上の鯉である啓子さんもこれを了承せざるを得なかった。

さて、すっかり暗い雰囲気になってしまった2人は沈黙を続けたがしばらくして台湾は話を変えてこう切り出した。

台湾「ところでここの家資産たんまり持ってそうか?」

啓子さん「さぁ、地元の名士の家の本家やから結構あるんと違う?」

台湾「ほんで、あの工場長は長生きしそうか?持病は?」

啓子さん「通院がちやけど、そこまで歳やないからねぇ」

台湾「よっしゃ、俺がお百度参りしてあのおっさんの寿命縮めたる。ほしたら遺産はお前ら夫婦のもんや。他の親戚がガッついてこんように目ぇ光らしとけよ。お前も苦労したけどやっと報われるのぉ」

2人分のサンドイッチとおにぎりやらスモークサーモンやらだし巻きやらの簡単な食事が出来上がったのを受け取って台湾はキッチンから出ていこうとした。

それを後ろから呼び止めるように啓子さんが「あの・・・」と声をかけると台湾は「遺産が入ったら俺にも金貸してや、商売始めるから」と振り向いてニッコリ笑いながら語り台湾はわかばのいる部屋に戻っていった・・・。

つづく