알았어(アラッソ)

というわけで「チェイサー」です。

元ネタは日本でも話題になった「あの事件」

連続猟奇殺人犯に拉致られたデリヘル嬢を救出すべく夜の街をかけめぐる元締めのオッサンを描いてるんですが・・・


様々な社会問題を内包しつつも人間の内面性に迫る重厚なストーリー展開と何ら関係なく僕は

Mr.BOOを思い出してしまいました

だって主人公が小うるさい個人事業主で利口でない社員(というか舎弟)が一人いて、という設定がまんまマイケル・ホイとリッキー・ホイだったりなんかしちゃったりなんかしちゃったりするんだもんなぁ。

結局あれやこれやで拉致られたデリヘル嬢を救出すべく探偵まがいの行動に走る姿はまんま「いやいやながらやってます」という感じだし、都心部のロケも路地裏的なとこばっかり映すかと思えば主な舞台は丘の上に教会が見える下町になっちゃうし。

もう


コンビ二に寄ったら → 絶対ファンタの瓶みたいなのに入った牛乳買ってストローで飲む

坂道で追跡劇やったら → タイヤに巻かれて転がる

警官につかまりそうになったら → 変装して逃げる

証拠集めに警察があちこち掘りまわしてる現場での逃走劇 → 穴に落ちる


みたいに勝手に次の展開想像しちゃうもんなぁ。

他にもお偉いさんの検察庁の人が出てきて捜査に茶々入れるシーンとか完全に香港映画でよくあった主人公たちの邪魔するイギリス人(当時の宗主国の人間;いっつも同じヒゲ面のおじさんが演ってた)に頭が上がらないっていうシーケンスと一緒だし、主人公が決して善意の人でなくてどちらかと言わなくても間違いなく女性から搾取して苦しめる立場の人間であるという設定が

「あひるの警備保障」でやった「本当は悪事を働く側と同じ生活苦にあえぐ庶民なのに食っていくために自分たちを搾取するお金持ちの財産を守る人の苦悩」っていうテーマと共通するもんがあるわけなんですわ。

主人公は最初まわりからあれやこれやと急き立てられてそのたび「알았어(アラッソ;この場合は”はいはい、わかりましたよ”みたいな意味)」と生返事して自分より弱い立場の人間を締め上げるんですが、その主人公のパーソナリティがその後の展開で宿命としてのしかかってくるんですね。

「あひるの警備保障」はリッキー・ホイが義侠心から罪を犯し、それをマイケル・ホイが救済する話ですが、こちらは救えない、救われない、そもそも元の人生にも最初から救済などない。と、とことん暗いお話になっております。

例え神が再来してる救済が行われたとしても、もはや救われない魂を持ってしまった男、というわけですな。

この映画の最高の見どころは「仁義なき戦い」のように「生への渇望」をダイナミックに描きつつ「人生への絶望」もしっかり描いてるところですが、絶望した登場人物の表情は踏んだり蹴ったりの目にあって泣きそうになったマイケル・ホイの表情とよく似ておりました。と、無理やりシメる。