ネチョネチョとグチョグチョ

参った。本当に怖いというかグロすぎて吐いた。フランス・ホラーの「屋敷女」ハンパねぇ。

この映画というのが、これまた最近話題のフレンチホラーの佳作「マーターズ」と同じく「ジャロ」風味の作品(お約束の「ガラス割りもあります)でして、フランスはグラン・ギニョールなんてな独自のジャンルのお芝居(人形劇)があったところなんで実はこういうのお得意なんですな。

さて、この「屋敷女」なんですが、なんというか妊娠、出産という生命の神秘と女と女の情念の激突と血まみれのバイオレンスが渾然一体となって、極限のトランス状態まで観客を引きずり込むというホラーの中のホラーといった感じのお話でございます。



さて、話はすさまじく飛んで僕はハードボイルドというジャンルが大嫌いだったりするんです。

まぁ、ハードボイルドと言いましてもいろいろあって北方謙三に言わせればハードボイルドといえばソープに行くことですし、内藤陳に言わせれば読まずに死なずに読まずに2度死ぬことですし、御大ジョン・ウーに言わせればコルト・ガバメント2丁拳銃のことなんですが、幼少の頃から変な親父に入れ知恵された僕の場合は正しく「感情表現を排した『辛口ドラーイ!!』な文章表現で大人のセカーイを表現するもの」と認識しておりましたんですわ。

ただ、最近では団塊世代が定年退職してしまってですね、「ナポリタン(笑」「女物のツッカケ(笑」みたいなヤンキー → バブル文化全盛を謳歌した世代が幅を効かしてしまったもんですから「むかつく」とか「気に入らん」とかって全部主語が1人称の言葉が日本の知識層に乱れ狂ってて本当にウザいんで(団塊世代だったら「我々」。絶対個人を主語にしない)、感情を排除するハードボイルドも再評価されてもいいかな?とは思ってるんですけどね。

さて、なんで「辛口ドラーイ!!」が嫌いかというと、結局修羅場におかれた時の人間関係(それが殺し合いであってもね)ってネチョネチョグチョグチョしてて決してドライにはなりえないということに大人になって気づき出したからなんですわ。

で、辛口ドラーイ!!にすることの意味ってのは要するにそういうネチョネチョの状態に客観性を求めるからなんですわ。深淵に向かわずに高みの見物がしたいっていうね。離れたとこから傍観してわかった気になってる。つまり中二病ですな。

加えてこの修羅場をコメディタッチにするってのがさらに幼くって(ゴメンね僕がこういう質ですね)笑いとってたら物語の核心からはこれまた離れてしまうんですよ。

本来ネチョネチョした修羅場の事象を辛口ドラーイ!!に描写したりコメディタッチにしたりってのはみなさんご存知の通り英語圏の人がよくやる技法でして、僕が「英語に芸術の魂は宿らない」とまで言い切る僕のスタンスの根本にあるもんです。

その点やっぱり芸術の国フランスですよ!シャンソンなんかでみなさんご存知の通りネチョネチョグチョグチョの修羅場をありのまま描いてさらに深淵に突き進むために「美」と「醜」をミクスチャーしたりといかがわしい技法をケレン味たっぷりに出してくれるんで僕なんか気分悪くなって夕食すっかりあけてしまいました。

この映画の骨子というのが「痛み」を観客に理解してもらう表現手法でして、臨場感は(例えストーリーに矛盾点があっても)間違いなくありますよね。そのおかげで「こんな痛い目に遭いながら何故そこまでする?」という疑問が観客の心の中に自然と浮かんできてそっからスムーズに物語のテーマに入っていけるという寸法です(もちろん「男にはわからないでしょうけどお産って本当に大変なのよ!」ってのを表現するってのもあるんでしょうけど)。

このお話、ホラーにしては加害者目線が多様されているっていうか殺る側の目線での展開も可能な限り(被害者目線でないと恐怖が表現できないから基本は被害者目線)導入されてて上記したようなネチョネチョドロドロ感を出すのに一役買ってます。「産まずに死ねるか」と抵抗する主人公に対して「産まずに二度死ね」と凶器持って迫ってくる殺し役って構図で。でも登場人物は全て人間として扱われてて全員他人を傷つけることもあれば傷つくこともあるんですけどね。

ヒューマニズム」っていうと、いかにも道徳的で秩序だったものを想像するかと思うんですが、この映画に出てくるような理不尽な運命に翻弄されたり、他人にとっての理不尽な運命になることで自分の人生取り戻そうとしたり、視力を奪われて警察官の職務なんか明後日の方にうっちゃって被害者も加害者もだれかれかまわず暴行したりと血みどろの修羅場の中で生への渇望を訴えるのもヒューマニズムなわけでして、正直正視に耐えないくらい強烈なシーンがいっぱいある映画ですがそれゆえに「人間ってなんだろう?」とか「人生ってなんだろう?」ってな疑問の答えが最後にあるような気がする不思議な映画です。実際答えがあるかはご自分で確かめてください。少なくとも「辛口ドラーイ!!」な切り口では見つからなかったものがそこにあります。