勝田ズ・ウェイ  10


長々と書きつづけてきた「勝田ズ・ウェイ」なんですが、困ったことに次の展開を考えておりません。

といいますのもこのお話は元々個人的に期待して観た「ダークナイト」が駄作だったので「それなら」と「四谷怪談」と「ダークナイト」を合体させて脳内映画として考えたものなのです。オリジナルのプロットはこんな感じ

「将来を約束された若きエリート・ビジネスマン。アメコミ狂の彼の心に何か得体の知れないものが生まれたのを感じた。正義の味方となって悪を討つヒーローの魂だ。そうなってくると親友や同僚が悪役に見えてくる。正義の味方として覚醒し、悪役を倒し(殺す)正義を実行する彼の前に現れる謎の女幽霊。彼は自分が何かのストーリーのプロット(筋立て)に従って行動しているように感じ、そのプロットのほころびを探り、そこから事件の真相を探る内、自分の失われた記憶を思い出す。最近出てくる女幽霊はかつての自分の恋人。そして彼女を殺害したのは彼自身だったのだ。そしてこの事実からプロットを書いて彼を操る人物の正体が判明する・・・・・」

というものでした。だから今まで書いたお話は後半に衝撃の事実として用意しておいたプロット(この部分だけ連合赤軍事件にインスパイアされてます)を改編したものなんですね。まぁ、元のお話は「こんなのつまんね。そもそも俺ミステリー嫌いやし(それでもノーラン兄弟が考えるものよりは上出来だと思ってますが)」ということで見事にボツってたんですが。それを実在するろくでもない連中をDisるために再利用しようということで「カッターズ・ウェイ」のプロットにあてはめて事実関係のみで構成したのが「勝田ズ・ウェイ」というわけです。


すいません、というわけで続きは今から考えて今日中に書きますのでよろしくお願いいたします。それでは始めます。
いつものようにこのお話はフィクションであり、劇中の個人・団体・事件等は実際のものとは一切関わりございません。また、前回、前々回と劇中に「大淫婦」なる言葉が出てきますが私も意味はわかりません。

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勝田くんが失神してる間にリンチ殺人の実行犯4人と社長は2人の死体の処分について話し合った。実行犯4人は無い知恵を絞って本当に綿密な完全犯罪を考えた。決して死体が見つからない方法で。だが、それには興戸建設の資材をフル活用する必要がある。それを聞いた社長は「ばかもん、そんなに綿密に隠蔽工作して身内の資材も使ったら死体が発見されないことで逆に捜査の線が絞られるし、死体が発見された時にすぐに我々の正体がバレるだろうが。綿密にうまくやろうとすればするほどそれを行える人間というのは限られるものだ。そうじゃなくて短絡的で誰でも行えるような形での犯行に見せた方がよろしい」
ということになって、結局2人の死体を無造作に捨てることになった。さゆりちゃんがボウリング場に行くのに乗ってきた軽自動車(2人を拉致る時に一緒に運び出して資材倉庫の裏にバレないように置いていた)の中に死体を入れて運び出し文字通り無造作にそれを放置した。死体を放置する場所だが以東市の東側にある麻田市の土手沿いの道で通行止めになって人通りの無いところだ。クルド人コミュニティがある場所のすぐ近くである。一応死体には途中で土手で拾ったブルーシートを被してある。
こういう所に車を停めておくと、大概数日後にはタイヤが外されたりするし、キーでロックされてなかったら車上が荒らされたりする。そういうことをやるような連中しかこの車を物色しないので死体を通報する人間は皆無。なので2人の家族が捜索願を出してから死体が発見されるまで5日間かかった。

その間失神から目覚めた勝田くんは解放されて家に帰された。当分ショックで仕事はできそうにないので病欠ということで3日間欠勤させた。その後体力の回復に時間がかかりそうということで内勤として興戸建設の本社ビルに転属された。そうこうする内エヴィンちゃんとさゆりちゃんの死体が発見され2人の葬儀に勝田くんも参列。これらが全て片付いて捜査の手が社長や勝田くんや他4人に伸びていないのを確認した後、夜中に社長は人気の無い自分の会社駐車場に犯行に関わった人間全員を集めた。そしてこの期に及んでもまだ得意の説教が冴え渡った。
「いいか諸君、とりあえずは危機は去った。でもまだ油断はできない。これは戦いだ。我々には住み慣れた街を故郷を日本を敵から守らなければならない。敵とは何か?不徳、無礼、自己保身だ。こういう考えに溢れた連中とは日本人は共存はできない。我々は彼らを倒すために団結しなければならない。我々の固い友情は打ち砕かれることなく、絶え間ない努力は必ず実を結び、我々を勝利へと導くだろう。みんなで団結してこの苦難を乗り越えるのだ!」そう言って全員で輪になってスクラムを組ませ、最後に「オー!!」と全員で社長の言葉に答えた。

自分らで犯したリンチ殺人を隠蔽するのを「苦難」と表現するなど、興戸社長の詭弁は今夜も一段と冴え渡っているが、一度そういう詭弁でもそれを信じて行動にうつすとそれが真理になるのが人の心のダークサイドである。なので今この場にいる全員が「日本の未来のために清く正しく」みたいな考えに感化されていた。これを今後は「大いなる幻想」と呼ぶ。その「大いなる幻想」を考える幻想の世界の支配者は他ならぬ興戸社長なのである。

勝田くんも「何で俺はここにいるんだ」「俺は一体何をやっているんだ」と自分の立場に疑問を抱きつつ、いや、抱いているからこそかこの「大いなる幻想」に飲まれていった。

さて、そんなこんなでその夜の集会(?)は終わって、勝田くんは興戸社長が車で送ってくれるというので社長の車に乗ろうとした時、公一に呼び止められた。走りながらこっちにやってきて公一はこう言った。
「勝田、お前にはつらい思いをさせてすまなかった。でもおかげで俺たちは助かった。お前は命の恩人だ、これから俺たちは友達だ。友達の証としてお前にこれをやろう。受け取ってくれ」
と言って自分がつけていた腕時計を外して勝田くんの左腕にはめてやった。そして固く握手した。勝田くんは「もうどうだっていいよ・・・・」と思いながらうつむいて「ありがとう」と小さくお礼を言った。

車に乗って勝田くんの家に帰る途中社長は「それは公一が大学に入学した時に私がプレゼントしたものだ。前から欲しがってたから貰った時あいつは本当にうれしがってたなぁ。勝田、いいものを貰ったな」と言った。

家に帰ってあらためてその時計を見た。オメガのスピードマスターというヤツだった。「オメガかぁ、007だなぁ」と勝田くんはつぶやいた。「自分だったらジャッキー・チェンのファンだからブライトリングの方がよかったなぁ」なんてなことを思いながらまじまじとその時計を見てびっくりした。

マジ汚い。

いろんなところがそろそろ腐食しかかってるように見えるくらい汚い。まるでジェームス・ボンドが大活劇の間中着けていてその後ラストの美女とのラブシーンで汚いからと外してそのまま次の作品まで放置されてたかのような有様だ。
精神的にかなり弱っていた勝田くんだったがその時計を見て「こりゃたまらん」と思いすぐに左腕から外してすぐにポリデントを買ってきて一晩洗浄した。結局アレヤコレヤと試行錯誤で洗浄して納得するまでキレイになったのは3日後のことだった。

「いつも履いてるコードバンの靴といい宝物のはずのこの時計といい何で自分が大切にしてるものをあいつ(公一)は大事にできないのだろう?」
と思い「本当にあんなやつらと仲良くやっていけるのか?あいつらの住んでる世界は一体どうなってるんだ?」と不安になった勝田くんであったが現在はやはり彼もまた公一たちと同じ「大いなる幻想」の世界の住人だった。


つづく