勝田ズ・ウェイ  12


ヤヴァいなぁ、先日も休んだし、この調子では「全20話以内、今月中には終了予定」というスケジュールをオーバーしてしまいそうだ。この話。
というわけで、「勝田ズ・ウェイ」の原型である「四谷怪談meetsダークナイト」の方からキャラを一人引っ張ってきて強制終了を目論んでおります。
でもなぁ、そいつを引っ張ってくるとこのお話のテーマがぼやけてくるんよなぁ。話がくさくなるし。まぁいいか。そっちの方がオリジナルの「カッターズ・ウェイ」には近くなるもんね。というわけでいきましょう。

くれぐれもこのお話はフィクションであり、劇中の個人・団体・事件等は実在のそれとは一切関係ございませんことよ。

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ある晩、お家でくつろぐ勝田くんの携帯に着信が。公一からだ。「勝田、今度の土曜日みんなでメシでも食いにいかないか?」というお誘いだった。メンバーは公一、「大いなる幻想」のメンバーの呉(くれ)、公一の彼女、呉の彼女に勝田くんの5人になる予定だ。「・・・・・・・」と嫌な予感がして了解を渋る勝田くんに対して「心配するな、井口は連れていかん」と公一が言ったので勝田くんはOKを出した。
なぜ勝田くんが井口を嫌がるかというと、ただ単純にキモいからだ。井口は顔立ちはくっきりはっきりしてて濃い系の80年代前半の男性アイドルみたいな感じの顔立ちをしている。それなのに、それなのに背が異様に低い。しかもヘアスタイルが今時70年代風ウルフカット(ググってね)ときたもんだ。しかもこいつは目つきが怪しくて遠くからジーと凝視するくせがある。それにリンチ殺人にしても4人のメンバーのうち公一、呉、福山はさわやかなスポーツマンの見本のような連中だ。とてもあんな恐ろしいことができるような感じの男たちには見えない。となるとあの事件の首謀者として一番怪しいのは井口ということになる。こいつは他の3人のメンバーの将来のためにもなんとか排除しておきたい。こいつがいるとあのメンバーがいつまたあんな事件を起こすとも限らない。

なんてことを考えながら勝田くんはもう一つ気になることを公一に聞いた「恰好はどんな恰好で行けばいいの?」「ラフな恰好でいいよ」と即答された。

というわけで今度の土曜日がやってきた。食事の場所は以東市内の山の手の公一たちが通ってるおぼっちゃん大学のすぐ近くにあるイタリアン・レストランだ。勝田くんは市内(このお話の舞台となる県の県庁所在地・神太利(こうたり)市のこと。このお話の登場人物はみんなこう呼ぶ)の豪勢なホテルのレストランでタキシード着て食べるのかと思っていたので肩透かしをくらった。「金持ちのくせにみんなケチくさいんだよな。こいつら」と勝田くんは思ったがお金持ちの子弟は公一くらいであとのメンバー井口・呉・福山は普通のサラリーマンのお家の子だ。さらに最近は不況でどの会社も規模縮小やら何やらで肩身が狭い有様なので緊縮財政なのは当然である。
しかし、以東市の住人の場合は他にちょっと特別な理由があり、「だいたい年収800万以上の方々が豊かさを享受する閑静でクリーンなサバービア」である以東市なので、住人はこの世界の空気を心の底から愛し、市内のような大都市の喧騒を「不浄」として忌み嫌うのである。そして、その中で自分たちが豊かさを享受する権利を正当化するために道徳を重んじ清貧な生活を心がけている。そして自分たちの生活の豊かさが「寄らば大企業のかげ」であることに由来し、自分の力では1円も稼ぎ出すことができない事実を心のどこかで自覚しているのか、組織の力に頼らずに大成するような人間を「どこかで悪いことをしているに違いない」と妬み、勝田くんの周辺にいるような豊かさを享受できない層には「努力が足りない、甘えている」と蔑む性質が身についた。

というわけで公一たちがこういう以東市内の「自分たちの縄張り」の中でしか活動しないのは至極当然の結果なのである。さて、件のレストランは私鉄の駅から500mくらいのところなので勝田くんは徒歩で現地まで、他のメンバーは自分の車で現地にやってきた。公一はグレーのイタリア製のカジュアルジャケットで襟が立っていて肩はイカって、ウェストは思いっきり細く見えるシルエットのやつだ。それと同じような色のパンツに靴はやっぱりコードバンの靴(今回はジョン・ロブ)・・・という出で立ち、呉は同じくグレーっぽいニットカーディガンにベージュの細身のパンツにジャックパーセル(黒)。公一の彼女は美馬(みま)さんと言い全身白っぽいコーディネートで半袖ワンピにゆったり目のカーディガンで左腕を例の峠道での事故で骨折したらしくカーディガンのそでに通さずギブスをはめて肩から吊っている。呉の彼女は越智(おち)さんと言い、ジャケットにジーンズという出で立ちだ。

そして、そんな4人の前に現れた我らが勝田くんの風貌について説明しよう。まずはいつものようにパンツはディッキーズ(グレー)にバンズのスリッポン(こげ茶のカモフラ柄)、上はアウターがカーハートのデニムカバーオールに中は白と赤のチェックのネルシャツによれよれのベージュのスエード革のベスト。このアウターのカバーオールがクセモノで勝田くんのこだわりで破れた肘にスエード革パッチを貼ってみたり襟をコーデュロイを貼り付けてみたり自分の痩せ型体型に合うように全体のシルエットを細くするやらの寸法直しをしてかれこれ5年以上着込んだ逸品なのだ。とどめが勝田くんが「エビちゃん」と呼んでる海老のように腰が曲がった婆さんがやってる近所の商店街の裏手にある帽子屋にオーダーして作らしたフェドラ帽。確かに自分専用なのでバッチリ似合ってるけどこれらが全体的に見てシルエットが丸みを帯びてヨレヨレ感が出てるのだ。ボサボサ頭に無精髭にアイパッチという顔つきと相まってどう見てもレストランの近辺をうろついてると残り物を貰いにきたホームレスに見える有様だ。公一はそんな勝田くんを見て自分の父が実子の自分が見てても呆れるくらいの溺愛ぶりに当てつけて「ホームレスの王子様」と心の中で呼ぶことにした。



さて、そのホームレス王子・勝田くんですが、ここで皆様にお知らせ。一旦勝田くんをリコールいたします。彼は元々「そこら辺に転がってそうな(転がってはないか)兄やん」をイメージして創作したキャラで皆様の中でも勝田くんのイメージはある程度できあがってると思いますが、今後の展開を考慮して(話が早く終わるように)3つの「男の武器」を授けます。
まず1つは「アゴから胸までのラインがとってもキレイ」ほっそりしつつも直線的なアゴのラインに突き出したノドボトケ、そしてくっきりと出た鎖骨に厚くは無いが広い胸、その筋の好事家(ホモ)の諸兄なら乳首にむしゃぶりつきたくなること請け合いという感じになっとります。
その2、「仕草がセクスィー」彼は手先が器用という設定ですし、他の男の子が勉学や部活に勤しんでる時に色んなバイトに明け暮れてきた男なので職業的な意識の高さから効率良く仕事をこなす意識が普段の動作にも表れて(わざとらしくない)色気を授かった、ということにしといてください。
その3「手がキレイ」これが一番重要で勝田くんの手はシワが少なく毛も産毛しか生えてない、そして働く男の手なので多少は傷があったり日焼けしたりはしてるものの化粧品のCMの文句よろしく「張りとうるおいと透明感」がある白魚のような手になっていて、指も長く手は大きく指先から肘までのシルエットも仕事で鍛えられて華奢過ぎずゴツ過ぎずで理想的な腕をしてる、という感じなのです。以上の追加項目を念頭に入れてお話の続きをお読みください。



5人がテーブルに付いてから、新参者の勝田くんは改めて自己紹介をした。室内でも帽子を取らない勝田くんに注意する公一に「ロマの連中(ジプシー)はみんな寝る時以外帽子を取らない」とうそぶいた。公一は他の皆を見て肩をすくめただけでそれ以上言わなかった。さて、最初のお話は勝田くんの人となりを女の子2人が質問してそれに答える形式の問答が続いた。どういうわけか公一が勝田くんが説明した後にオチを付けて勝田くんを道化にしようとする。「なんだ?この空気は?」と思ってイライラしながら注文した料理が来るのを待つ勝田くんはテーブルに肘をついて拳の上にアゴを乗せてみたりのけぞって足を組んでタバコを吹かしてみたりする。それでも間が空いたので美馬さんのギブスを見て「大変そうだねぇ」といった感じで怪我の状態を聞いてみた。「全治2ヶ月くらいで大したことは無いけど生活がいちいち不便。でも公一が付き添ってくれて本当に助かっている」という返事が返ってきたので「ほう」と思い公一の顔を見た。さわやかスポーツマンな笑顔を見せるこの男だが、これをお読みの皆様は決して忘れてはいけない。この男ともう一人の呉が勝田くんの彼女と友人のリンチ殺人を行った犯人であることを。
そうこうしてる内に料理が来た。その時勝田くんはウェイターに2、3品小皿に取り分ける料理を追加で注文した。皆お行儀良く食事しているが勝田くんだけはやっぱり左肘をついてアゴを拳の上に乗せてふてくされたような仕草でパスタを食べた。何しろ自分の友人を殺害し、彼女の殺害を強要したリンチ殺人の犯人たちと和やかにしてるのが勝田くんのおかれてる現状だ。「俺は一体何をやってるんだ?」と思えてしょうがない。ただ、今の和やかな雰囲気の中ではあの惨劇は自分の妄想か何かではなかったか?とも思えてきた。「コイツラハオレノトモダチ、イイヤツラ、オレハコイツラノトモダチ二ナレテシアワセ・・・・・、デモオレハナニモノナンダ?」という考えが頭の中に浮かんで勝田くんを思考の迷宮に誘い込む。
そんな考えが勝田くんの頭をよぎっている時に他の4人のお話は政治や経済の話になってきた。そして、自分の親たちも厳しい状況で仕事をしており、今まで当たり前だと思っていた自分の家族の繁栄にも影が見え始めたことを異口同音に語り出した。そうなると公一が熱く語り出して「そんなことじゃダメだ、確かに今の日本は本当に打ちひしがれた状況だが、我々は本当に優秀な民族のだから必ず元の繁栄を取り戻せる。そのために努力しなければならない、我々が享受している繁栄は我々には相応しい当然受益すべき権利である。今はそれらを不当に受益しているけしからん奴等が多すぎるんだ云々」と興が乗ったのか親父譲りの説教が始まり出したが、親父の方は東京三田の名門大卒でインテリなので相手の態度を見ながらそれに対応して話すのに対して公一のそれは相手の目を見ず空を見つめて話すのでほとんど説得力が無かった。
そんな公一の話に嫌気が差した顔をした越智さんが「ねぇ、勝田くんはどう思う?」と聞いてきた。一瞬ドキッとして我に返った勝田くんは「まぁ、がんばりましょう」といった感じの適当な返事をした。そして話を勝田くんの話題に変えてアレコレと質問した。そして「勝田くん、彼女は?」と聞かれたので勝田くん、公一、呉の3人は目を見開いてお互いの顔を見合った。時間にして2秒間が空いた。「ああ、最近分かれたばっかなんだ」とうつむいてそっけなく勝田は返事をした。他の2人も「そうそう、こいつそれでちょっと落ち込んでて」と話をかぶせた。さすがに「殺りました」とは言えんわな。
「そう、残念ね。でもすぐ新しい彼女できるわよ、勝田くんいい男だもんね〜」と快活そうな越智さんは大人しめの美馬さんに同意を求めてきた。「そうそう、がんばってね」と美馬さんも勝田くんを励ました。「ああ、ありがとう」と、どう見ても新しい彼女よりも残飯の方を恋しがっているように見えるホームレス王子・勝田くんは適当な返事をした。野郎2人は何があったのかその様子を少しこわばった顔つきで眺めている。なお、この時、勝田くんの印象を極めて悪くしている「陰気くさい目つき」はアイパッチで片目が塞がってるから威力が半減しており、無精髭のおかげで「男の武器」のアゴから首筋のラインが強調されていたのでこの女子2人の「(ホームレス風なのに)勝田くんはかっこいい」論説もあながち社交辞令とは言えないものがあった。(我ながらええ加減な設定やなぁ)

そんな会話を続けていると勝田くんが追加注文した料理がやって来た。テーブルの中央に置かれた料理を早速公一が片腕が使えない美馬さんのために小皿に盛ろうとした時、さっと勝田くんが遮って言った「俺がやるよ、これは俺みたいなのの仕事だからな」先ほどからかわれたお返しだ。カバーオールを脱いで腕まくりをしていた勝田くんはサッサと料理を小皿に盛ってまずは美馬さんに差し出した。その時先ほどのリコールで追加しておいた「男の武器」の「キレイな手」が目の前に来たので美馬さんは一瞬ドキッとしてから「わぁ、ありがとう!」と言って勝田くんに微笑んだ。勝田くんも「どういたしまして」と微笑み返した。公一が勝田くんをキッと睨んだが「何か問題でも?」という顔で返した。次に手際よく越智さんの分を作って前に置いた。

そんなこんなで食事を終え、5人が店を出た時、公一・美馬さんカップルだけ店の玄関の前で立ち止まって話出した。呉、越智、勝田くんは駐車場の方に歩いていってたが後ろからもの凄い怒鳴り声がして振り向いた。公一が美馬さんに怒鳴っていたのだ。そしてうつむいた美馬さんを残して険しい顔つきでスタスタとこっちにやってくる公一は勝田くんたちを無視して自分の車を取りに行った。勝田くんら3人はうつむいて立ち尽くす美馬さんに「どうしたの?」と聞いたが「ごめんなさい、ワタシが悪いの・・・」と答えるだけだった。

車を取ってきて片腕が不自由な美馬さんをやさしくエスコートして車に乗せた公一は勝田くんにも「駅まで乗せてやろうか?」と聞いてきた。さきほどのレストランでの会話で公一と呉がオイル交換はおろか自分の車のボンネットすら開けたことが無い「乗ることしか興味が無くて車の性能なんかカタログスペック以外気にしない」性質の連中であることが判明したところだったので勝田くんは断った。「そんなヤツらの車に乗るなんて例え500mくらいの距離でも自殺行為だ」というわけだ。

「そうか、今日はお疲れさん。あと、ちょっと・・・」っと指で「耳を貸せ」と合図した。勝田くんが耳を持って行くと公一はこう言い放った。

「今度はもうちょっとマシな恰好して来い」



長くなってすいません。つづく