勝田ズ・ウェイ  17

そろそろクライマックスになってきた「勝田ズ・ウェイ」ですが、元ネタの「カッターズ・ウェイ」は話が抽象的な分だけラストが私が考えたストーリーよりも無茶だったりします。ラストを元ネタに合わせようとするとちょっと苦しくなってしまうんで非常に苦しんだのがこのお話が長くなった原因であります。

このお話はフィクションであり実在の個人・団体・事件等とは一切関係ございません。でも、関係無いといいつつマクドナルド、カーハート、ディッキーズ、ヴァンズ、ハーレー・ダウ゛ィッドソン、マックツールなどの企業の名を出して宣伝してやってるんだから何かくれ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

興戸社長からの電話で間違い無いことを確認した勝田くんはおそるおそる電話を取った。

「勝田、お前には失望した。なぜ明るい未来をお前に与えようとしているこの私を裏切るんだ?お前が私に従うことで得られるものは1億、いや、お金では代えられないものなんだぞ。それを欲に目がくらんで裏切ってしまうとは。お前にはもう未来は無いぞ。頼りにしてる美馬さんももういない。言ってる意味がわかるな?」

それを聞いた勝田くんは西川きよしばりに目を見開いて驚いた。何故こうもあっさりと美馬さんの存在がバレたのか?

その理由だがこういうことだ。勝田くんが美馬さんと再会した雨の日のこと、勝田くんが公一の車から追い出された美馬さんとマクドナルドに入る光景を「ああ、雨が降ってきたしやっぱりかわいそうだから迎えに行くか」と引き返して美馬さんを迎えに返った公一が目撃したのだ。公一は勝田くんのことをて「ホームレスの王子様」と揶揄するほど男としては小馬鹿にしている。そんな勝田くんが自分の彼女と自分の知らないところで仲良くしてるのを知った時の公一の怒りたるや半端では無かった。自分より(社会的に見て)格下の男に女を取られるというのも腹が立つが、以東市の人間は裕福な半面保守的で昔のお百姓さん根性が根付いているので女性が自分の意志でもって男を替えるという行為が背徳の極致なのである。まぁ、異性との離縁の前に新しい相手を作って離縁するケースは一般的に女性の方が多いと言われているのでこの考え方は以東市独特なのかも知れないが、公一はまさにそのお百姓さん根性の塊みたいな男であった。公一は腹を立てたが勝田くんの行動を監視するのが得策とも考えたので彼らを放っておいた。怒っているのがバレるとまずいと思い美馬さんからの電話にも出なかった。というわけだ。
その日の出来事を他の「大いなる幻想」メンバーに報告したが、興戸社長は「まぁ、その状況なら偶然2人が会って雨宿りしただけというだけのことではないのか?」となだめたが公一の怒りの様子から「勝田には念のため不埒なことはせんように今度注意しておくからお前はしばらく美馬さんから離れておきなさい」と指示した。我が子ながら一度殺人を犯した公一に対して恐怖を感じているのである。
それから3日間、勝田くんの仕事の同僚である井口に様子を伺わせ、それほど変な様子が無いのを確認して「さぁ、そろそろ注意しようかな」と思った矢先に脅迫状を勝田が届けてきたのである。そして、脅迫文の漢字の部分はどう見ても女の子の字。「もしや?」と思って公一に連絡して見てもらったら間違いなく筆跡が美馬さんのものだったというわけだ。

そこからが興戸社長の本領発揮だった。幾多の修羅場をくぐり抜けてきた百戦錬磨の経営者であるこの男曰く「こういう時は速きこと風の如しだ」とばかりに公一と先ほど勝田くんにシバかれた井口を使って美馬さんをさがさせた。美馬さんは自分にもしものことがあった時のために手紙を書いて父親の会社に送る予定だったが会社の住所と父親の働いている部署を確認するために一旦家に帰ろうと自宅の最寄り駅についたところを車に拉致された(注;現実には真っ昼間の駅でそんな危険はまずございませんのでご安心ください)そして残念ながら美馬さんは車の中で嫉妬の鬼と化した公一に撲殺されてしまった。そして誰もいない美馬さんの自宅まで死体を運び込んで井口と公一は家に火をつけた。

はい、「勝田くんか美馬さんどっちかが死ぬ。さぁどっち?」というお題は美馬さんが死にました。やったぁ、勝田くん今回も助かりぃ!という安易な展開ではない。興戸社長の電話はそこからまだ続いた。

「それとな、勝田。会社のお前のロッカーから例のリンチ殺人の被害者の女の子の持ってた手帳が見つかったぞ。お前がリンチ殺人の犯人だ。そして美馬さんの件もな」

会社のロッカーは確かに鍵がかかるのだが、会社の備品なので会社側が合鍵を持っているケースが多い。それを利用して勝田くんの持っているキーホルダーを勤務中に井口がパクり、何かの時に使おうと隠し持っていたのだ。そのキーホルダーを美馬さんの死体の口にくわえさせて濡れ衣を着せるというわけだ。そしてリンチ殺人の時にエヴィンちゃんがいつも持っていた手帳も何かの時に役立つだろうと社長室の金庫に保管しておいたのでそれを勝田くんのロッカーに入れておいたというわけだ。「状況としては滅茶苦茶だが証拠品がとりあえず見つかれば罪をなすりつけることは可能だから大丈夫だ」とは興戸社長の弁である。(ホントかよ?)

勝田くんの頭の中にさきほどの美馬さんの「3人も殺せば確実に死刑」という言葉が響く。今の状況では自分は確実に死刑だ。目の前が真っ暗になった。

その後、電話は横にいるらしい公一に代わった。「勝田よ、俺たちは友達だっただろう?何故俺を裏切る?何故俺のモノ(美馬さん)に手を出す?お前はひどい奴だ。もうお前なんか友達じゃない。辛い目にあってもお前のせいだからな」と言って電話は切れた。

「ああ、どうしよう。この状況は最悪だ。やはり自首すべきだったんだ。脅迫の話に乗った時美馬さんと自分の力量が心配の種だったけどそういう問題じゃなかった。あいつらエヴィンの手帳まで持ってやがった。最初から逆らえなかったんだ。いくら能力があっても自分を取り巻く状況を変える力は俺には無かった!」

と、その時ドアをノックする音が響いた。「警察だ。なんで捜査はでたらめで遅いのにこういう時だけ早いのか?」と思いつつ万事休すの状態で頭を抱えひざまずいて泣きそうになっている勝田くんは目の前にあるハーレーに目が行った。ブレーキレバー、ブレーキペダル両方とも根元から折れてブレーキがかけられなくなったハーレーだ。「何もかも終わった、でも落とし前だけはつけよう・・・・」そう心の中でつぶやいてこのバイクに跨り、キックしてエンジンをかけた。

かかった

今まで本当に重かったはずのキックペダルが今日に限ってスコスコだ。アクセルを吹かすと調子良くエンジン音が響いた。
ギアを1速に入れようとした時、自分の左腕に着けている公一から貰った時計を見た。そして昔見た映画「イージーライダー」を思いだし時計を外して汚い物でもあるかのように壁に叩きつけた。「最初から友達じゃねぇや」とつぶやいた。そして思い切りアクセルを吹かした。


さて、外にいるのは以東市の警察2名である。ノックしても出てくる様子が無く、バイクのエンジン音が響き出したのにビビった警官たちは勝田くんちの前の一方通行に止めてあるパトカーを勝田くんの家のドアの前に置いた。これで絶対にバイクでドアをぶち破って出てこれない。それでもエンジンを吹かすを音は大きくなり、いよいよドアをぶち破ってバイクが外にでようか、という瞬間に備えた警官たちだったが何故かその音は遠くに行ったような気がする・・・・。何故か?


一番最初に書いたと思うが勝田くん家は元々雀荘だったところを改修して無理やり家として住んでいるところだ。その中にバイクを入れて整備したりしてたわけなんだが、雀荘でしかも前のオーナーがパクられたことからもわかると思うが賭博として麻雀をやっていたところだ。なので警察のガサ入れに備え色んな仕掛けがしてある。逃走経路として室内の奥に勝手口が設けられており、そこを抜けると築40年近い安アパートの建物と建物の間の小路に出れる。そこをまっすぐ行くと勝田くん家の前の一方通行とは反対側の大通りに出られる。勝田くんはバイクでそこを通って出て行ったのだ。警官たちが何が起こったか気づいた時には勝田くんはすでに大通りに出ていたのである。

勝田くんが向かった先はもちろん

興戸社長や公一がいる興戸建設の本社ビルだ



最終回につづく

※バイクは正しく乗りましょう