台湾ヤマハ&わかばマン 「慰めの報酬」

え〜、前回の石切連合の設定を私、非常に気に入ってまして「強い者にはとことん媚びる、弱い者はとことんいびる」「悪の限りを尽くしてるくせに社会との関わりを無性に持ちたがる」「見栄っぱりでコンプレックスが強いので自分らは前に出ずおねーちゃんの枕営業に頼る」等、私自身のマイナス面というか情けない部分を悪役に投影したらこんなんできた、というのが彼らなんですね。そして書き忘れてましたが主人公の台湾ヤマハのモデルは私の大好きな俳優・木村一八と「嗚呼!花の応援団」の青田赤道です。「みすずちゃん」の名前もそこから拝借してます。

このお話はフィクションであり、実在の個人・団体・事件等とは一切関係ございません。

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石切連合メンバーの大方の企みを見抜いた台湾は、とりあえずみすずちゃんのバイト先の配送センターを尋ね、主任と呼ばれてる男と直に話をしてみた。木下のおやっさんからの指示でできるだけことを穏便に済まして欲しいというので慣れないながら交渉で解決を試みた。
事務所で二人きりになって椅子を向けあい台湾は主任に「あなた方がこうこうこういう方々なのは調べさしていただきました。誠に申し訳ありませんがみすずちゃんをたらし込んでどうこうというのはお止めください。そもそもあのコはそういうことには決して向いてるコではありませんし親御さんも心配してるので・・・・」と本当に穏やかに語った台湾に対して主任はこう語った

「なんや君、あまり事情が理解できてないようやな、みすずちゃんと佐藤は勝手にできてしもたんや、手が早いから往生するわ、あいつにはホンマ。確かに俺と佐藤は石切連合に入っとるんやけどそれを承知でみすずちゃんは付き合い出したんやで。ほんで俺らの仕事(横流し品の在庫管理)もすすんで自分からやる、言い出したんや。子供っぽいコや思たけど女ちゅうのは変わるもんや・・・」

話がそこまで来たところで台湾は立ち上がって、立て板に水の如く喋る主任の顎にトゥキックを喰らわした。ヤクザのおしゃべりなんぞは大概退屈で下品で事実無根で中身が無い。「人間の性悪なり」の理論で「世の中そんなもんやないで、お若いの」と言う論説をかませば煙にまけると思ったようだが、その口を塞げばどうということはない。キックを喰らった主任は舌を思いっきり噛んでしまい口から血を吐いてヒーヒー言いながら床に這いつくばった。それを胸ぐらつかんで立ち上がらせ「手ぇ引け言うとんのじゃボケェ!!」と怒鳴りあげた。
台湾は阪神大震災で父親と家を失って大阪に来た男なので同じ震災で躍進の足がかりをつかんだ石切連合が大嫌いだった。そして職場の地位を利用してよからぬことを企むこういう手合も本当に大嫌いだった。台湾の気性から言って手を出すな、というのが土台無理な相談だったのだ。


ここで、後に発覚した事実関係を説明しておこう。かなりヘンコな女ながらヴィッキー・チャオ似でそこそこ可愛く、白魚のようなお手々をしたみすずちゃんを上層部に献上すべく主任と佐藤は職場でみすずちゃんの囲い込みを行った。
よく、「ヤクザに学ぶXXX」みたいな本でも「ヤクザがいかに女にモテるか」みたいなのが武勇伝的に書かれてたりするが、ヤクザになったからといってモテるんだったらみんなヤクザになるはずである。ヤクザ(暴走族も)が女をコマすテクは「脅す」「ダマす」と「囲い込み」である。前2つはいいとしてこの「囲い込み」はあまり警察も規制する手段が無いようで問題なんだけど、要するにターゲットの女が他の男とくっつかないようにまわりの男を追い払い、「どうしても自分とくっつかなければいけない状況」作り上げるのである。本人に危害を加えるわけでは無いから犯罪は立証できないがまわりはたまったもんではない。ついでに興信所の「復縁工作」とか「離縁工作」とかもおそらくこういう手は使うだろう。

なので、配送センターに来るイケメントラック運ちゃん2人は出入り禁止になり、みすずちゃんは仕事が事務所での伝票整理に変わり佐藤と2人きりで仕事させられることとなった。
が、この佐藤というのがやっぱり半端もんなのかみすずちゃんがヘンコなのかどうにもうまくコマせんかったのである。主な理由はみすずちゃんの身長は172cmで佐藤が161cm。みすずちゃんは自分より背が低い男を男と認識しないのだ。そして、後になって話すがみすずちゃんには他に意中の人がいたんである。1ヶ月粘ってアカンかった佐藤と主任は作戦変更。配送センターの冷凍倉庫に貯蔵してある製薬会社の工場から横流しした薬品原料の管理をやらすことにして仲間に引き込んでから脅そうということになったが、何せみすずちゃんは倫理感が根本的に欠落した人間である。逆に「バラされたくなかったら金くれ」と脅してきたのである。つまり主任が台湾に話したことは全てハッタリの与太話である。

そんなわけでみすずちゃんにまつわりついた石切連合の主任をしばいた台湾はその勢いで佐藤を家から連れ出し、もう一人関与したと思われる主任を連合に引き入れた「AV業界に顔が利く(自称)」と豪語する連合のメンバーもひっつかまえてまとめてしばきあげた。「そんなに枕営業したかったらオドレらがカマ覚えて自分のケツ使ってやってこい!」と言って木下さんちの小さな裏庭で植えているゴーヤを拝借して3人のケツに突っ込んで各人の尻に「石切」「連合」「参上」とカッターナイフで刻みつけて夜中にK鉄の駅の近くのガードレールにくくりつけて放置した。

その後、その三人は街から姿を消し、みすずちゃんもバイトをやめて無事で済み、事件は解決したが怒りに任して派手にやりすぎたと反省した台湾はしばらく石切連合の報復を気にして過ごすことになる。しかし、結局報復らしい報復は事件から1ヶ月後に台湾の家の模型屋のシャッターに糞便が塗りつけられたことくらいでそれ以後音沙汰なしだった。

その後、台湾は売上の伸びない模型屋を祖父母に任して中国地方某所の某工場にバイトで行くことにしたが、その工場の社員の一人がどういうわけか佐藤だったのだ。

やりにくさはあるものの平静を装って普通に作業を続けて気が緩んだ半年目。工場内の倉庫に用があって入って行った台湾を佐藤と手下とおぼしき2人が襲った。当然、返り討ちにして佐藤の額にカッターナイフでオメコマークを刻み制裁を加えた。

結局それが原因で雇い止めをくらうことになった台湾。第一話のガソリンスタンドの一件の後、山陰のとある漁港にたどり着いた時、とあるポスターが目に入った。

若手の演歌歌手の写真が写ったそのポスターを見て台湾はつぶやいた



「あのボケェ、こんなところおったんか」



つづく