台湾ヤマハ&わかばマン 「前金でよこせ」


え〜、以前指摘したとおり、上の「カッターズ・ウェイ」と「ハーレー&マルボロ」は共通点がありまして、社会から隔離された2人の男が宿命的に企業の不正と対決する物語なんですね。前者はベトナム戦争の犠牲者、後者は企業の看板を背負い込んだ者たち。んで、この「企業の看板を背負ってる」人たちということで現実世界で共通してる特徴を持ってる人たちといえばキャンペーン・ガールとかレースクイーンとかその辺なんですね。なんで、最初はそういう人たちが主役の話を想定しましたがこれが思いつかなかったんですね。「企業の看板背負ってるキャンペーン・ガールとかの人たちが宿命的に企業の不正と対決する物語」はどなたか作っていただけないかと思う次第です。
ただ「カッターズ・ウェイ」も「ハーレー&マルボロ」もスポンサーのコカコーラ社がイスラエル協賛企業で戦争や飢餓を巻き起こす元凶を作ってる映画の悪役みたいな連中というのは何とも皮肉ではございますが(スポンサーを茶化したような内容の映画を作るのが作る側としては楽しいんでしょうな)

話が逸れましたが、このお話はフィクションで実在の個人・団体・事件等とは一切関係ございません。

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わかばが所属するあやしい零細芸能プロは商店街の一角の1階は居酒屋、2階はマッサージ屋・・・に見せかけた賭博場、という建物の3階にある。居酒屋の横の狭い階段を登っていくと「大山芸能事務所」という小さな看板のあるドアに突き当たる。そのドアを開けるといきなり豪華な絨毯が敷かれた文字通りの事務所になっている。部屋の中央には立派なガラスの灰皿が置かれたテーブルと高そうなソファが4つ、部屋の窓側にはマホガニーでできたごつい机があり、その向こう側に大山という事務所の社長が座っていた。

この男、容姿は一言で言うと大橋巨泉そっくりである。実際、ここら界隈のドサ回り的芸能界では「山陰の巨泉」と呼ばれる男だが芸能プロの社長という肩書きなので「山陰の秋元」だったらありがたいが「巨泉」だったら疫病神である。実際その程度の手腕と力しか持っていない。

んで、この巨泉の実態はもちろん石切連合に所属するヤクザなわけなので見た目に安心してはいけない。この巨泉の目の前に立ちはだかってマホガニー製の机ごしに台湾は怒鳴りつけた。

「お前ら、どういうつもりやねん!?こんな仕事(イロモノ演歌歌手)させたって売れるわけないやないか。絶対売れへんように仕向けて一生飼い殺しにするつもりやろ!」

という恫喝に対して臆することなく巨泉は言った。

「何を言うてんねんな。ちゃんとデビューさせたり公演ブッキングしたりしてるやないか。それに本人が嫌や言うたらいつでも辞めてもらってええんやで。山陰は地味なところやけどお隣韓国でKーPOPのアイドルになってるコなんかも輩出してるところやで。バカにせんといて欲しいなぁ」

台湾「何をごちゃごちゃ言うとるんや!お前らが中途半端に仕事持ってくるからこいつはバイトもできんから生活がまともに出来んで困っとるんやないか!こんな事務所すぐに辞めたらぁ!」

巨泉「それやったら解約解除の取り決めにある違約金200万払ってもらおうかいな」

台湾「何が200万じゃ!アホウ。お前らなんかに1円足りとも金なんか払うかい!」

巨泉「それはでけん。契約書にちゃんと支払い義務が記載されてるぞ。ほれ。収入印紙もちゃんと4000円のやつが貼ってあるやろ?」(と言って契約書を台湾に渡す、それをまじまじと見た台湾は一言)

台湾「これコピーやないか!!原本を見せんかい!原本を!!」と怒鳴るがやはり動じずに

巨泉「原本見せたら破って契約書が無かったことにする気なんやろ?原本はそこの金庫の中や、夜中に建物に火ィつけたって焼け落ちへんからしょうもないこと考えるなや」

台湾「(考えを読まれて苦い顔をして)そうか・・・、わかった、それやったら200万円分今からきっちり耳揃えてお前にパンチ喰らわしたるから頭出さんかい!!」

と、いつものバイオレンス路線にいこうとした瞬間に隣で見ていたわかばが制止する声と不気味な気配を背後に感じた。振り向くといつの間に部屋に入ったのか、ヤクザ丸出しの縦縞スーツをきたスキンヘッドの男が立っていた。がたいはおそらく2mくらいある。

台湾「なんや、お前は!やるんかい!?」

と怒鳴りながら背中を取られた動揺を隠しつつこの男の弱点となる「スキ」を全身見回しながら探ったが、全く見つからない。しょうがなく攻撃を諦めた台湾は「金は耳揃えてキチっと持ってくるからな、覚えとけよ」と巨泉に捨て台詞を吐いた。その様子を見てニヤリと嫌味な笑みを讃えてスキンヘッドの大男はスタスタ後ろに下がり出入り口のドアの付近に仁王立ちした。

台湾たちも出ていこうとしてドアに向かいスキンヘッドの男の前を通ったその時、台湾はポロッとスキンヘッドの男に向かってこう言った。

「お前何絨毯汚してんねん?」

その言葉に反応し、一瞬だがスキンヘッドが自分の足元に注意を向けたその時、こっそり左手に持っておいた灰皿でスキンヘッドの左のこめかみを殴りつけた。
一瞬苦しんだ顔をしてすぐさま反撃に出ようとしたスキンヘッドの攻撃をかわし左横にまわりこんだ台湾はスキンヘッドの膝の後ろを蹴ってひざまずかせ、すかさず後ろに回り込んで灰皿でスキンヘッドの頭を何回もど突き始めた。

ガラスの灰皿はわずか3回で砕け散ったので両手の自分の拳でスキンヘッドの頭をボコボコ殴り続ける台湾だったが8発目の時に右手を掴まれた。すかさずスキンヘッドの右腕と肩の間に自分の右膝を入れスキヘッドの頭を固定、左の拳でこめかみを数回殴りつけて合計6発をお見舞いした時、とうとう台湾の右腕を握るスキンヘッドの手の力は緩み前に倒れこんだ。

「調子に乗んなよ」と捨て台詞とツバを吐き、台湾とわかばは事務所を後にした。

階段を降りながら台湾はさきほどスキンヘッドに握られた右腕の痛みに耐えながらつぶやく

「あいつらぁ、大阪帰って西成でトカレフ買うてきてカチこんだるからな!みとれぇ!」

さすがに先ほど倒したとはいえスキンヘッドのようなやつらが大勢でかかってこられては台湾も勝ち目が無いと思い何か策を講じようというのだが、先ほどの様子を見てびびりまくったわかばの方はうろたえながら

「どうするつもりや?一体、200万なんて金」

と台湾に尋ねるが「アホウ!そんな金あんなゴキブリどもに何で払わなあかんねん?全員スマキにして日本海放り込んだるからな!」と、バイオレンス路線での解決策を出すばかり。

そんな二人が商店街から出ようとしたところに派手な遊び人風の高そうなスーツ姿(髪は長め)のチャラ男が声をかけてきた。

「ちょって待てよ。あんたらだろ?さっき吉田(スキンヘッド)を倒した連中ってのは?あいつは腕は立つけど事故で左目の視力が弱っててな左からの攻撃に弱いんだ。よく見抜いたな?」

台湾「何や?今ので俺にホレたんか?それやったら一回3千円で乳首しゃぶらしたってもええぞ。ただし右だけやぞ」とおどけた返事をする台湾に真顔で愛想よく

チャラ男「いやいや、そんな趣味はねーよ。実はそんなアンタらに仕事頼みてーと思ってな。なーに、仕事は簡単だけど俺向きじゃないからさ、あんたたちなら適役だと思って。報酬は50万でピンハネは今回はしないでおいてやろう。どうだ?」

このチャラ男、名前を高橋といい、かつては「川崎の狂犬」と呼ばれた武闘派のヤクザだった男だが流れ流れて現在はここ山陰の石切連合に客人として身を置いている。見た目は20代後半くらいのチャラ男だが当年取って47歳、色々と過去がある男である。

そんないかにもうさんくさいこの男の持ってきた仕事はさすがにヤウ゛ァい匂いがするが、台湾とわかばはこの際なので引き受けることにした。この状況では選択の余地は無いだろう。

高橋「そうか引き受けてくれるか。明日の夕方、この商店街に集合な。そんじゃ」

と2人の前から去っていく高橋を呼び止めて台湾が一言叫んだ。

「ご、5千円でええから前金でくれ!」

つづく